人生最大の危機

それは先週のこと。そろそろこれの仕上げに入ろうと作業を開始して「アレッ!?」となった。ほぼ完了まで持っていった筈のそれが、聞こえてくるのは明らかな不協和音 …  いやそれどころではない、まるで調律の狂ったピアノ = ホンキィトンクピアノになってしまっているではないか。音源の設定はそのままなのにおかしいなあと思い、あれこれ試してみたがダメ。何が起きたんだ?  狐につままれたようで、まるでわからない。

そこで「一体いつから?」と、以前に録音したのを聴いてみた。ところが、なんとこれもホンキィトンク!  まさかずっと前からこうだったのか? と一瞬思ったが、どう考えたってその時点でこれに気づかない訳がない。もしかしてPCの音の設定か?  と調べてみても問題ない。この時点で、何かとても嫌な予感がしてきた。

恐る恐る、今度はYouTubeでピアノ曲を聞いてみた。すると、やはりこれも同じ!!  イッキに動悸が高まった。そして同じのをiPadで聞いてみたところ、それは的中した。なんとこれもホンキィトンクなのだ。

この時点でハッキリしたのは「俺の耳がおかしい」という事実。震える手でイヤホンをiPadに挿し、まずは右だけで聞いてみたらこれは正常。そして左耳だけにしたところで愕然とした。半音近くピッチが低い!!! 背筋に冷たいものが走った。原因は何だ?  症状はこれ以上進行するのか?  などなど不安で一杯になり、翌朝直ちに耳鼻科へ直行した。

検査の結果は「鼓膜には異常なし、だが左のみ高域での聴力が落ちている」のだそうで、恐らく基音に対する高周波成分付近が大きく凹んでいて、結果的に音程が低いと感じてしまっているのだろうとの診断。ストレスや疲労でこうなるケースはよくある事なので、まずは充分に睡眠をとり、聴覚神経の血行を良くする薬を一週間きちんと服用して来週また来なさい、との事。

そこから一日、翌朝まできっちり薬を飲んだが症状は好転せず。しかもこの日は午後から旧友が2名、酒持参で来ることになっていた。いつもの音楽談義に花が咲く筈のところだが、肝心の耳がこの始末なのでやむなく耳栓を買って来て、左にだけ装着した。これで少しはマシになったが、その違和感に不安は更に高まった。

そしていよいよ宴の始まりとなったが、これは黙っていてもダメだろうと、最初に現状を説明する事にした。さすがに両名「ええっ!?」と驚いていたが、そのうち酔いも回ってきてヤンヤとなり俺自身、つけたままの耳栓の事も忘れていた。

その後、シメに外で夕食をとり、帰宅してまた薬飲んでTVをつけた。するとどこかそれがとても自然な「鳴り」に聞こえてハッとした。試しに耳栓を外し、音量を上げてみたら、なんとあのホンキィトンクが失せているではないか!  おいおいマジかよ、と鍵盤叩いてみると、まだいくぶん音程が危ういとはいえ、明らかに朝より良くなっているのがハッキリ実感できた。薬が効いたのか、それとも酔のせいか、それともはたまた夕方から降り出した雨によるものか、といろいろ考えを巡らせたが、ここは大人しく寝るに限ると判断、そのまま布団に潜り込んだ。

あれから数日、すっかり良くなって今これを書いている。さて実はここからが本題なんだが、不思議な事にあの時「これでオシマイか!」と絶望する事はなかった。それは、外から聞こえる音はおかしくとも、頭の中では以前通り美しい音が鳴り続けていたから。ベートーヴェンの気持ちが少しわかったような、そんな気がした。そういう意味では、そこまで覚悟したという事にもなるんだが。

何はともあれ、得難い経験でしたー!