新日フィルの思い出

先にNHKで放送された新日フィルの演奏会の模様を、録画で見ている。新日フィルかー …  久々。いまや墨田区を本拠地に安定した活動を続けているこのオーケストラだが、俺はこれまでに一度だけそれをごく間近で見た事がある。だがそれはコンサートホールで、ではない。それは …

— ココカラタイムスリップカイシ —

それは70年代末の秋、平日の夕方だったと記憶する。行きつけのレコード屋の壁に貼られた「オーケストラが町田にやってきた!」というポスターを見て驚いた。あの新日本フィルハーモニー交響楽団が今日、すぐそこに来るというのである。それもタダ!  ヒマだったし、行ってみる事にした。

但しその会場たるや、今はなき某デパートの屋上(!)。アンパンマンショーとか、演歌の新人がカラオケとかではない。プロのオーケストラが、都下摩天楼のてっぺんで演奏するというのである。雨でも降ったらさすがに中止だったろうが、この日は朝から曇天+強風。その一帯には、不穏な空気がこれでもかというほどに垂れ込めていた。

現場、もとい会場には開演より少し早く着いた。が、客少ない(涙)。既にコンクリの床には椅子やら譜面台やらが配置されていたが、その脇には運動会とかでよく見るテント。どうやらその下で湯呑み茶碗を握っているのが指揮者らしいが、強風で寒いのか肩を丸め、その周りでは男性団員らが髪をクシャクシャにしながら着替えの最中。これじゃあ女性はもっと大変なのでは?  と思ったら、エレベーターホールみたいな一角がそれに充てられたらしく、みなここにすし詰め。しかもガラス越しにその様子が丸見え(笑もとい涙)。

その間にも風は更に強くなり、客もそれなりに集まってきたが「こんなんで演奏できるんかいな?」と心配する中、楽器を抱えて団員がゾロゾロと出てきた。そして着座、コンマスのAでチューニング開始 … とそこへ、これまでで最強の疾風!  見ていた俺も身の危険を感じる中、哀れ譜面台から奪われた譜面の幾つかがが空高く舞い上がり、どこかへ消えて行った。客もみな逃げた。奏者らの前には譜面なき譜面台。

「笑っちゃいかん!」と、自らを戒めたが笑ってしまった。そんな悲劇的な状況下、指揮者が登場。「よーしオープニング、いこーかー!」と笑顔で咆哮後に指揮棒一閃、始まったのがおなじみあの常動曲@直純@TBS。

だがそこはさすがプロ。譜面などなくとも、一糸乱れぬアンサンブルがそこに繰り広げられた。ただその途上で更に多くの譜面が飛ばされるは、弦は倒されそうな譜面台を足で止めるは、管はみな空いた方の手で髪を撫で付けるはでそれはもう阿鼻叫喚。終わった時には心から「ブラボー! 」と叫んでやりたい気分だったが、既に周囲に人がおらず自粛。

あの催しがその後どうなったのか? この時点で俺も逃げたので、知らない。「音楽をナリワイとするというのは、これほど大変な事なのだ」というのを強烈に思い知らされつつ。

— ココマデ —

あの頃の新日フィルって、若い団員ばっかだった。創立からまだ数年、正にいちばん大変な頃だったろうと思う。今とは隔世の感ありなあの頃。もしかしてあの時の誰か、まだ現役でいたりして。